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13. 軽量食器 ①「国民の器」への挑戦

  • Eriko Tsuchida
  • 1月8日
  • 読了時間: 6分

 軽量食器と、私たちが叶えたかったこと 〜

フィロソフィー

・美濃焼の可能性を引き出し、物語とともに届ける

・作り手と使い手の接点を増やし、産地に貢献する

・当たり前を塗り替え、持続可能な窯業を確立する       

お疲れ様です。

今日は、今や日本の食卓のスタンダードになりつつある「軽量食器」について話をしたいと思います。 実はこのプロジェクト、私たちの会社にとっても単なる「ヒット商品」という枠を超えた、非常に大きな意味を持っているのです。

「透明」しかなかった世界を変える


ことの始まりは、あるメーカーとの取り組みでした。 当時、美濃焼の産地にはすでに軽量食器は存在していましたが、そのほとんどが「透明な釉薬」をかけただけのシンプルなものでした。

軽い器は生地が薄いため、色つきの釉薬を塗ると吸収されにくく、乾きが遅くなります。生産効率が極端に落ちるため、表情のある色をつけるのは「業界の常識」として不可能とされていたのです。

しかし、私は確信していました。 「この軽さに、土物(つちもの)のような温かい表情が加われば、間違いなく最強の器になる」

そこで釉薬メーカーに相談し、何度も試作を重ねました。試行錯誤の末に完成したのは、業界の常識を覆す「豊かな色彩と表情を持つ軽量食器」でした。これが雑貨店での販売を皮切りに、大きな反響を呼ぶことになります。


テストを繰り返し、釉薬を調整。オリジナリティがありながら料理を引き立てる器が出来上がりました。
テストを繰り返し、釉薬を調整。オリジナリティがありながら料理を引き立てる器が出来上がりました。

現場が「大手量販店」を熱望した、切実な理由


このヒットを通じて、メーカーの信頼関係はより強固なものになりました。ある時、私は彼らに尋ねました。 「本当は、どこと一番仕事がしたいですか?」

彼らの答えは即答でした。 「あの大手量販店です」

その理由には、単なるブランド力だけではなく、もっと現場の切実な願いがあったのです。 その量販店は一度採用が決まれば、10年単位で同じ商品を売り続けてくれます。焼き物の現場にとって、シーズンごとに商品が入れ替わるのは大きなリスクです。同じものを長く作り続けられれば、職人の習熟度が上がり、不良品が減り、歩留まり(良品率)が飛躍的に向上します。

「ロスを減らし、安定した生産体制を守りたい」 それがメーカーとしての彼らの本音でした。当時、その売り場にはすでに他社の軽量食器が入っていましたが、まだ大きな波にはなっていませんでした。「私たちの新しい軽量食器なら、勝負できる」 ――その想いは一つになりました。


売上消失の衝撃と、再起をかけた一手


しかし、順風満帆に見えた矢先のことでした。 当時のメイン取引先だった雑貨チェーンが民事再生となり、大きな売上が一瞬にして消えてしまうという危機に直面したのです。

社内が騒然とする中、専務が言いました。「あの量販店に挑戦したい」と。 メーカーの願いを叶え、そして私たちの会社を救う。ターゲットは一つに絞られました。 私は専務にこう約束しました。 「商品は私が企画し、話をつけてくる。その後の実務は任せたぞ」


「あなたを出世させる」――バイヤーへの覚悟


そして当時、その量販店のバイヤーだった方に出会いました。彼は歴代の担当者の中でも非常に志が高く、陶磁器の持つ価値を深く理解している人でした。 私は彼に、単刀直入にこう切り出しました。

「私と組みませんか。あなたを、この商品で必ず出世させてみせます」

決してハッタリで掛けた言葉ではありません。これはいけると確信したからです。 そして私は、ただ「モノ」を並べるだけではなく、「売り場そのもの」をデザインする提案をしました。

  • 単品ではなく、食卓をコーディネートできる組み合わせの提案。

  • 棚割(VMD)まで含めた、完璧な陳列設計図の作成。

  • さらにテスト販売段階で予算を投じ、商品の魅力を伝えるプロモーションビデオも制作。

「ここまでやるベンダーは他にいない」 担当者は私の覚悟を信じ、既存の商流をひっくり返して、私たちとの取り組みを決断してくれたのです。


50店舗から始まった「伝説」


最初は50店舗でのテスト販売からスタートしました。 しかし、蓋を開けてみると、誰もが予想しなかった事態が起きました。

わずか50店舗の売上が、あたかも全店で販売しているかのような驚異的な数字を叩き出したのです。店舗あたりの回転率は、通常の約6倍。 この異例の事態はすぐに本部で注目され、即座に全店拡大の指示が出ました。 現場は作っても作っても追いつかず、納品率が20%を切るという、まさに嬉しい悲鳴が上がる異常事態となりました。


なぜ、そこまで売れたのか?


ここで私たちが考えなければならないのは、「なぜこれほどまでに支持されたのか」という本質です。 単に「軽いから」でしょうか? 私は違うと思います。

以前、催事対面販売をした際、お客様が器を持った瞬間に「軽っ!」と驚き、そのまま吸い込まれるようにカゴに入れる姿を何度も目にしました。 私たちが提供していたのは、食器という「モノ」ではなく、「生活の課題解決(ソリューション)」だったのです。

  • 身体的な重さによるストレスを解決する。

  • 食卓の情緒的な課題(味気なさや物足りなさ)を解決する。

この軽量食器は、日常の切実なストレスを解消する道具でした。だからこそ、理屈抜きで選ばれたのです。


小さな子供でも無理なくもてる器。「軽いね〜」と食器洗いのお手伝い。
小さな子供でも無理なくもてる器。「軽いね〜」と食器洗いのお手伝い。

全国CMという異例の展開と、「国民の器」への共有目標


そして、このプロジェクトのスケールを象徴する出来事があります。 実は、私とバイヤーの間には、「これを累計1億2千万枚販売し、日本人の誰もが持っている『国民の器』にする」という共有の目標がありました。

その実現に向け、あの量販店は非常に大きな投資を決断してくれました。 この軽量食器シリーズ単体での、全国テレビCMの放映です。

本来、家具や家電に比べて単価の低い食器が、マス広告の主役になることは流通業界でも極めて稀なケースです。 しかし、それが一度きりではなく、継続的に実施されたという事実。それは、この軽量食器が単なる雑貨の枠を超え、日本の食卓に不可欠な「スタンダード」として評価された証でもありました。

こうして、巨大な販売網とプロモーションの力が噛み合い、「楽(らく)」という価値が日本中に届き始めました。

しかし、成果は売上の規模だけではありません。 このヒットの裏側で、実は私たちの「産地」が抱える構造的な課題も、解決へと向かっていたのです。



井澤コーポレーション/ ART HOME DESIGN フィロソフィー

このブログで語られる私たちの挑戦は、すべてこのフィロソフィーに基づいています。


【PURPOSE】

うつわの可能性をひろげ、五感で味わう食文化をつくる


【VISION】

井澤コーポレーション

産地と食卓をつなぐ、セラミックプロデュースカンパニー


ART HOME DESIGN

産地と食卓をつなぐ、セラミックデザインカンパニー   


【MISSION】

井澤コーポレーション

  • For Customer:美濃焼の可能性を引き出し、物語とともに届ける

  • For Industry:作り手と使い手の接点を増やし、産地に貢献する

  • For Society:当たり前を塗り替え、持続可能な窯業を確立する

  • For Employment:物心の幸福を追求し、働きがいのある環境を創る


ART HOME DESIGN

  • 土と食を探求し、土の都・美濃に貢献する

  • 時代を読み解き、世界との多面的なつながりをつくる

  • 産地と世界から着想し、デザインで食文化を創造する


【VALUES】

  • to Think:美味しいを哲学する

  • to Communicate:質から逃げない

  • to Make:心と言葉を尽くす

  • to Live:暮らしを楽しむ


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